#1007 曲がると、知らない世界に。
あなたの曲がり方が好き。
あなたと、ホテルのレストランへ行く。
ターミナル駅にあるけど、駅からは少し離れている。
サイトで「まっすぐ徒歩10分」とあるので、実際は、15分くらいと想像する。
そんな道も、一人だと遠く感じるけど、あなたとだと近く感じる。
もっと歩いていたい気分になる。
春の日差しが、心地いい。
昨日まで寒かったけど、今日はあったかい。
こうして、春になっていく。
気持ちいいのは、陽気のせい。
それとも、やっぱり、あなたと歩いているせい。
ホテル名と、道筋を書いたプレートがあった。
あなたが、角を曲がった。
たしか、まっすぐのほうが、最短ルート。
サイトには、「まっすぐ」とあった。
裏道の近道かな。
ほとんどの人が、同じホテルへ行くわけではないけど、まっすぐ歩いている。
あなたが、角を曲がると、ワクワクする。
曲がった角には、何かがある。
まっすぐ行っていたのでは出会えない何かと、出会える。
目の前を、何かが横切った。
虫かな。
桜の花びらだった。
見ると、細い道に、桜が咲いていた。
日曜日の昼下がりなのに、裏道には、誰も歩いていなかった。
一瞬、錯覚した。
今、アニメを見ているような気分になった。
その景色は、アニメだった。
色彩のパステルの淡さが、アニメだった。
桜の花びらが、風でスローモーションに舞った。
今私は、アニメを見ている。
それとも、アニメの中にいる。
さすがの、外国人旅行者もいない。
BGMもない。
「最短のまっすぐな道」があるおかげで、裏道の桜を、あなたと貸し切りすることができた。
「最短のまっすぐな道」は、あなたがハッキングして書き込んだにちがいない。