#1008 気づく人だけの、香り。
あなたの香りの味わい方が好き。
あなたと、ホテルに行く。
桜の裏道を独占した後、ホテルに着いた。
隠れ家のような小さなホテル。
まるで、教会のような入口。
入ろうとした時、中からブロンドの女性が出てきた。
入りかけたあなたは、後ろに下がった。
女性は、ニッコリと微笑んで、あなたにアンコンタクトをした。
あなたは、マタドールが、牛を通すように、女性に道を勧めた。
あなたの前に、レッドカーペットが敷かれたのが、見えた。
目と目で、会話があった。
通り過ぎた後、女性は、振り返った。
あなたを、二度見したのを、私は見逃さなかった。
教えなくちゃ。
あなたを見た。
その必要はなかった。
あなたも、振り返って、彼女のアイコンタクトを受け取っていた。
まるで、映画のワンシーン。
女性の後には、いい香りが残った。
あなたは、24時間、映画の中に生きている。
また、あなたの映画の中に、入れてもらった。
食事の間も、余韻が残っていた。
デザートは、<パンダンとコンカ豆のチーズケーキ>を選んでくれた。
ニューヨークのライフスタイルホテルなので、巨大チーズケーキを想像していた。
舞妓さんのお口サイズの細長いチーズケーキだった。
チーズの濃厚さも、控えめだった。
何かの香りが、した。
パンダンだった。
パンダンは、奄美大島のアダンに似た果実。
「東洋のバニラ」と呼ばれていると、あなたは教えてくれた。
また、別の香りが、漂ってきた。
記憶にある香り。
あなたが、教えてくれた。
コンカ豆は、フランスのフレグランスの材料。
それを手に入れるために、南米ギニアをフランスは植民地にした。
きっと、為政者も恋人の要望には、逆らえなかったと思うと、可愛らしい。
コウモリの好物。
コウモリも、可愛らしい。
サイズが小さめで、甘さも濃厚さも控えめなのは、香りを味わうためだった。
デザートは、この後のロマンティックな世界へ誘う媚薬だった。
思い出した。
さっきの女性の香り。
きっと、味わったに違いない。
この香りは、桜餅の香りだった。