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#1013 ボタンが、勝手に。

あなたのペティナイフの優しさが好き。
あなたが、料理を作ってくれている。
あなたは、キッチン。
私は、ダイニング。
あなたのペティナイフの音が、聴こえる。
正確には、あなたのペティナイフの音は、聴こえない。
だけど、リズミカルにあなたが切っているのは、わかる。
あなたは、ペティナイフがまな板に当たる直前に、寸止めしている。
だから、ペティナイフの音が聴こえない。
あなたは、優しい。
ペティナイフにも、優しい。
まな板にも、優しい。
ペティナイフがよく切れるからだけではない。
私が切ると。
やっぱり、音がした。
同じペティナイフ。
技術の違いだけではない。
ペティナイフの音が鳴らないのは、あなたの優しさ。
レストランでも。
あなたのステーキナイフは、往復しない。
いつのまにか、お肉が切れている。
それに比べると。
私のナイフは、バイオリンのボウのように、何度も往復している。
あなたのお肉は。
勝手に、服を脱いでいく。
まだ、そのボタンに触れていないのに。
ボタンが、勝手に外れていく。
今、キッチンでは。
セクシーなドラマが、展開している。
その音を、そっと聴くのが、好き。
ペティナイフが。
まな板が。
チンゲンサイが。
甘美なため息を、漏らしている。



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