#1016 事実よりも、真実。
あなたの「ありそう」が好き。
あなたと、パーティーに行った。
「お久しぶりです」
一人の美しい女性が、あなたに話しかけた。
これは、よくあること。
「覚えてます?」
名前を、名乗らなかった。
意味深に、微笑んだ。
これも、よくあること。
あなたは、ニッコリと微笑んで、話しかけた。
「何年ぶりかしら」
美しい女性は、何年も前から美しかったことが、一目でわかる。
「きれいだったなあ……」
あなたが言った。
えっ、その言い方って。
「あの頃から」
さすが。
美しい女性は、今もさらに美しかった。
彼女は、若い青年といた。
恋人か、弟か。
スーツを着た凛々しい青年には、どこか見覚えがあった。
彼女の魅力なら、年下の恋人がいても、おかしくない。
ナイスカップルだった。
彼女は、言った。
「息子です」
驚いた。
まさか、親子だったなんて。
次のあなたの一言に、さらに、驚いた。
「僕の?」
えっ。
覚えてますって、そういうこと?
どこか青年に見覚えがあったのも?
大人のジョークか。
青年が、言った。
「パパ」
こうなると、事実は、どうでもよかった。
あなたとこの美しい女性となら、ありそうということが、事実より、真実だった。