#1022 暗黙の、やり取りで。
あなたの暗黙のやり取りが好き。
あなたと京都のお店に。
暖簾をくぐる。
京都のお店のハードルは、高い。
暖簾をくぐるだけで、勇気がいる。
格子戸を、開ける。
「こんにちは」
厳密には。
あなたが声をかけたのは、格子戸を開ける前だった。
暖簾をくぐる。
格子戸の手前から、声をかける。
そして、格子戸を開ける。
それが、一連の流れだった。
お店に入ると、すぐ畳の小上がりがある。
店ではなく、家。
たたきのスペースは、小さい。
人は、いない。
不安に、なる。
普通は。
これが、京都のお店の、ハードルが高い所。
お店ではなく、家のほうに、間違って入ってきたか。
あなたは、落ち着いている。
ムダに、声を出さない。
余裕がないと、「すいません」と、奥に声をかけてしまう。
それでも出てこないと、もっと大きな声で「すいません」。
最後に、ダメ出しに最大の声で「すいません」と、なるところ。
あなたは、黙って、微笑んでいる。
奥から、着物の人が出てくる。
出て来た人も、微笑んでいる。
あなたが、「すいません」な人ではないことに、安心した表情。
「すいません」と叫ぶ人には、出てこない。
京都の店は、家にもなっている。
誰でも彼でも、入ってこられると怖い。
間違った人が、入ってこない仕組みになっている。
あなたは、お家の人を、安心させた。
暗黙の、やり取りがあった。