#1025 ひと言で、別の世界に。
あなたの読み聞かせが好き。
今日は、幼稚園での講演。
幼稚園児と、ママさんが集まっている。
子どもたちは、あなたを真剣に見ている。
あなたが、どういう人なのかは、知らない。
それは、情報的に知らないというだけ。
あなたという人間が、何者であるかは、ママたちよりも、知っている。
見抜いている。
子どもたちを、情報で欺くことはできない。
「大人だまし」はできても、「子供だまし」はできない。
一人のママが、絵本の読み聞かせをした。
上手だった。
滑舌もよく、淀みがなかった。
フリーのアナウンサーをしている人だった。
今度は、あなたが読み聞かせをした。
「むかーーーーーーーーーーーし」
それだけで、子どもたちは、笑った。
一瞬で、子どもたちは、物語の世界に入り込んだ。
まだ、「むかし」しか、読んでなかった。
あなたは、歌っていた。
文字に、メロディーが乗っていた。
しかも、まだ、絵本の表紙も、開いていなかった。
絵本は、表紙のままだった。
子どもたちは、あなたの「むかし」で、「これは、だいぶ昔だぞ」と覚悟を決めた。
それだけでなかった。
「面白そうだぞ」
と、予感していた。
子どもたちは、絵本を見ていなかった。
あなたを見つめていた。
子どもたちの口が、ぽかんと空いていた。
よだれを垂らしている子も、いた。
あなたの話す絵の世界の映像を、巡らせていた。
ママも、口が空いていた。
有名なお話だった。
のはずだった。
でも、初めて聞いた気がした。
私の膝に、水滴が落ちた。
私のよだれだった。