#1031 レースの後の、すやすや。
あなたの仮眠が好き。
あなたが、締め切りの原稿を書いている。
キーボードの音が、響いている。
音は、ショパンのように、滑らか。
時に、リストのように、激しく超絶技巧の響きになる。
今、あなたは、どこかに行っている。
あなたの脳の中では、F1レースが展開している。
もはや締め切りとの競争ではない。
あなたのアイデアを、書き留めていく競争。
あなたのアイデアは、時速200kmのスピードで、加速していく。
ヘアピンカーブも減速しない。
今、あなたに羽根をつけると、飛んでいくに違いない。
そんな時は、私は、できるだけ何も考えないようにしている。
私が心の中でつぶやくだけで、あなたに聴こえてしまう。
あなたのF1レースの邪魔になる。
あなたは書くのが速いと、みんなは言う。
でも、あなたは、違うことを考えている。
書くのが遅いことに、イライラしている。
あなたの頭の中で浮かぶヒラメキを追いかけ続けている。
もっと、ヒラメキをもっと速く書ける装置を、生み出してもらえないか。
あなたの、ヒラメキは待たない。
ティンカーベルのように、ランダムに飛びまわる。
時に、滑らかに。
時に、激しく。
そして。
クライマックス。
あなたは、ここで書き終える。
書き終えたのではない。
「続き」にする覚悟をしただけだ。
その後。
あなたは、言う。
「仮眠、していい?」
あなたの燃えたぎっている脳のエンジンを冷ますために、短い仮眠を取る。
あなたの枕から、湯気があがっている。
あなたは、子どものように、すやすや眠っている。