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#1037 目と目での、やりとり。

あなたの感想戦が好き。
あなたと、落語を見に行った。
面白かった。
登場人物が、みんな違う表情だった。
師匠の話し方は、あなたの話し方に、似ていた。
逆かな。
あなたの話し方が、落語なのかもしれない。
あなたは、子どもの頃から、落語が好きだった。
マスコミのデビューは、ラジオの落語のオーディション番組だった。
中学2年生の時だった。
終演後。
楽屋に、挨拶に行った。
汗だくで、師匠が、着替えられていた。
「失敗、だらけでした」
師匠は、おっしゃった。
意外だった。
あれだけの熱演で、高揚しているものだと、思い込んでいた。
決して、高揚しているわけではなかった。
極めて、冷静だった。
顔は、にこやかで、穏やかだった。
どこか。
将棋の感想戦のような冷静さが、あった。
私は、気づいていなかった。
気づいていない人が、多いに違いない。
あなたは、気づいていた。
師匠の幸せそうな顔は、感想戦につきあってくれるあなたに、気づいているから。
名人は、孤独。
気持ちが通じる相手が、なかなかいないから。
あなたと、師匠が、目と目で、話していた。
わかる者同士の会話だった。
何を話しているか、わからない。
わからないことを、話していることに気づけて、私は、幸せだった。



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