#1056 手間を、軽々と。
あなたの職人の手間が好き。
あなたと、職人街に。
ここは、鉄道の高架下の再開発計画で、伝統工芸や若い職人を応援するために作られたモール。
伝統工芸なのに、スタッフが若い。
伝統工芸というと、もっと年配の人を想像していた。
小さなお店が並んでいる。
お店にいるのは、販売員さんではなく、職人さんであることが、わかる。
職人さんから、話を聞きながら、買えるのが楽しい。
48軒も集まっている。
いろんな工芸品があることを、思い知らされる。
1歩歩くたびに、匂いが変わる。
木の香りがしてきたと思ったら、革の匂いがしてきた。
これは、何の匂いだろう。
わからないものもある。
旅館の香りが、した。
なんで、こんなところに、旅館の香り。
「漆だね」
旅館の香りに感じたのは、旅館には漆の器があるからだった。
あなたが、一軒のお店に、入った。
手ぬぐいのお店だった。
染め物のお店だった。
あなたの実家は、染物屋さん。
あなたの家にも、手ぬぐいが多い。
食器に、手ぬぐいがかぶせてある。
冷蔵庫に入れない果物には、手ぬぐいがかぶせてある。
直射日光と、エアコンの風に当てない優しさ。
ワークショップをしていた。
染める工程を、外国人の若いカップルが、体験していた。
若い職人さんが、英語で説明していた。
その都度、外国人のカップルが、歓声を挙げた。
かわいい使い方が、たくさんあった。
ティッシュボックスを、手ぬぐいでくるむと、こんなにかわいくなる。
工程の説明も、聞いた。
そんなに手間がかかるとは、知らなかった。
それでこの値段とは、「安すぎる」と思った。
あなたが、染物屋さんを継がなかったのは、大変さを家で見ていたから。
でも、今のあなたも、職人さん。
信じられないくらいの手間を、かけている。
手ぬぐいは、ほつれたら、端をちぎる。
外国人の男性が、手ぬぐいを渡された。
ちぎれなかった。
私にも、渡された。
ちぎれたけど、意外に、硬かった。
あなたに、渡された。
えっ。
あなたは、軽々とちぎった。
なんの力も、入れずに。
若い職人さんが、微笑んだ。
あなたは、職人の家の子だった。