#1072 余韻を、味わって。
あなたの手のひらの指示が好き。
あなたと、レストラン。
初めてのお店。
食事の後、化粧室に行こうと思うだけで、あなたが示してくれる。
あなたも、初めてのはずだけど。
あなたは、初めての場所でも、化粧室の場所がわかる。
建物を見るだけで、構造を想像している。
この建物だと、建築家は、化粧室をここに作るだろうと、想像している。
しかも。
あることに、気付いた。
あなたは、場所を指す時、指を刺さない。
手のひらで、示す。
あなたの手から、マジシャンのように、トランプのカードが出たような気がした。
手で方向を示す時、怖い人がいる。
攻撃的に、指差されると、自分に向かってなくても、怖い。
あなたの指さし方は、優しい。
指差すのではなく、運んでくれている。
指で指す前に、あなたの胸が開く。
手のひらが、最後に出てくる。
さらに、最後の手のひらが、指している方向から、少し戻される。
そっと戻す仕草が、優しい。
手のひらに乗せた花びらを、吹くような優しさ。
包みこまれるような、暖かさ。
もう一回、やって。
そんなふうに、おねだりしたくなる。
もう、化粧室の場所は、どうでもよくなる。
あなたが示す方向は、手のひらの前に、伝わる。
あなたは、胸の開きで、教えてくれる。
あの方向ねと、思っている時、あなたの手のひらは、まだ胸の前にある。
手のひらは、指示した後の、余韻。
その余韻を、化粧室で、しばらく味わっていた。