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#1078 記憶と、予測。

あなたの記憶と予測が好き。
あなたと、初めてのホテルへ食事に。
ゆりかもめで、有明に。
しばらく見ないうちに、タワーマンションが、立ち並んでいる。
ゆりかもめの駅を降りると、行列。
最後尾の札が、上がっている。
ホテルは、そんなに混んでいるのかと驚いた。
あなたのことだから、予約していると思うけど。
行列は、人気音楽グループの行列だった。
おしゃれな設計になっていて、ホテルの正面玄関が、わかりにくかった。
案内板の前で、正面玄関を探した。
地図で確認して、歩いていた。
「すいません」
あなたに、一人の女性が、話しかけた。
「劇団四季の劇場は、どちらでしょう」
「劇団四季の劇場、ありましたね」
あなたは、案内板の所に戻るのかと、思った。
あなたは、戻らなかった。
「この道を、真っすぐ行った左側にあります」
「ありがとうございます」
「横断歩道を、一つ渡った先です」
女性は、丁寧にお辞儀して、歩いていった。
あなたは、知らないはずだった。
初めて降りた駅だった。
さっき、案内板を見た時、ホテルの場所だけではなく、地図全体を記憶していた。
その記憶で、女性に丁寧に教えた。
女性が、しばらく歩いた後、振り返った。
そして、あなたにお辞儀をした。
あなたも、お辞儀を返した。
あなたは、女性に教えた後、動かなかった。
女性を見送っていた。
女性が、間違えずにたどり着けるか、見守っていた。
そして、女性が、振り返るのを、予測していた。
お辞儀をして、劇場に歩いていく女性の背中が、微笑んでいるのがわかった。



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