#1082 フクロウの聴力で。
あなたの聴覚が好き。
あなたと、表参道を歩いていた。
大勢の人が、歩いている。
表参道を歩く人は、テンションが上っている。
一年中、縁日の街。
日本人も、外国人も。
非日常のワクワク感を味わっている。
今日の食事を、決めていなかった。
「イタリアンに、しよう」
いいね。
こういう時、あなたは一体、どうやって決めているんだろう。
今、思いついたみたいだった。
あなたは、突然、思いつく。
前から、決めていたわけではない。
迷っているわけでもない。
ひらめく、という感じに近い。
「どうやって、ひらめくの?」
あなたに、聞いた。
あなたは、笑って、答えた。
「辻占」
夕暮れ時、四つ辻を行き交う人の声を預言として聞くのが、辻占。
それを、神様のアドバイスとして聞く。
「今ね」
あなたが、教えてくれた。
歩いていた人の、「アルベデルチ」という声が聞こえた。
イタリア語のさようなら。
どこで。
「そこ」
それは、道の向こう側だった。
表参道の車道は、片側3車線。
6車線向こうの会話を、あなたの耳はチャッチする。
しかも、車がひっきりなしに走っている。
この騒がしい中で。
あなたの耳は、フクロウの耳のように、研ぎ澄まされている。
フクロウは、地面の中にいるネズミの音まで、聞き分ける。
「ナイス・トラウザー」
あなたは、通りすぎたマダムに、声をかけた。
「私、スカートをほとんどはかないのよ」
と、イギリス人のマダムが英語で話すのを、あなたの耳は聞き逃さなかった。
私のお腹が鳴ったのも、もちろん聞かれていた。