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#1099 裏の、裏の道で。

あなたと歩く裏の裏の道が好き。
あなたと、表参道でランチの後。
そのあと、外苑の美術館に行く予定。
普通は、銀座線で行くところ。
ぽかぽか陽気だから、歩いて行こう。
という私の気持ちは、先読みされている。
一緒に、歩いていくことに。
あなたは、表通りを、歩かない。
ぽかぽか陽気で、裏道にも、大勢の人が歩いていた。
あなたは、裏道のさらに、裏道に入った。
さすがに、そこは人が歩いていない。
第一、 住居ばかりで、お店もない。
おしゃれではあるけど、古民家が多い。
大通りには、かつて空襲があった。
さすがに、ここまで裏通りの裏通りになると、当時は、静かな住宅街だったに違いない。
ひょっとしたら、畑だったかもしれない。
一軒の古民家の前で、立ち止まった。
そして、また歩き始めた。
また、立ち止まった。
古民家の中から、女性が出てきた。
「どうぞ」
「おじゃまします」
えっ。
あなたは、入っていった。
お茶室くらいの狭い空間に、何かが置かれていた。
バラのオブジェかな。
なんと、それは、おはぎだった。
女性が、こだわりを説明してくれた。
古民家ではなく、お店だった。
「どれが、いい」
私は、すでに選んでいた。
こんな時、さっきデザート食べたでしょと、あなたは言わない。
「こちらで、どうぞ」
奥から、椅子を出してくれた。
あなたは、このお店の存在を知らなかった。
お店の女性が声をかけたのではなかった。
あなたが、お店の女性に会釈を先にしたのだった。
ぽかぽか陽気の中で、椅子の上で、バラのおはぎは、お陽さまの匂いがした。



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