#1104 人形に、愛されて。
あなたの人形との接し方が好き。
あなたと、オルゴールの博物館に行った。
アンティークのオルゴールが、所狭しと並んでいた。
「まもなく、解説が始まります」
学芸員の女性が、教えてくれた。
ギャラリートークがあるとは、知らなかった。
「それでは、解説をさせていただきます」
現れたのは、さっきの学芸員の女性ではなかった。
館長さんのように見える男性だった。
さっきの女性が、解説してくれるのかと思っていた。
指輪の中に仕込まれた最古のオルゴール。
注ぐと音楽が流れるポット。
手に持つと、音楽が流れるウイスキーボトル。
座るだけで音楽が流れるチェア。
コインを入れると、音楽と共に走り始める競走馬。
ランプの明かりで、ラブレターを書くピエロは、オートマタ。
仮面を付け替える道化は、外した方の仮面の表情が変わる演出が、面白い。
ただ、音楽が流れるだけではない。
そこに、物語がある。
美しさだけではなく、切なさを感じる。
解説は、面白かった。
何よりも、熱がこもっている。
オルゴール愛に、満ちていた。
それぞれのオルゴールよりも、館長さん自身が面白かった。
博物館は、そんな人と出会えることが面白い。
後で、聞くと。
本当は、女性の学芸員さんが解説する予定だった。
ところが、あなたを見て、館長さんが解説を変わったらしい。
自動演奏が生まれた時、中に人が入って演奏していた偽物があったらしいと、あなたに教わった。
ひょっとしたら。
想像した。
機械で自動で動く人形が人間だとしたら。
この館長さんが、人間に見える、人形ではないか。
人形があなたを見て、館長さんの人形を通して、あなたと話したかったにちがいない。