#1108 どこから、思いつくの。
あなたの見立てが好き。
あなたと、書の展覧会。
空間は、デザイナーのギャラリー。
作者は、グラフィックデザイナー。
レセプションなので、御本人とも、話す。
芳名帳を、勧められる。
「見開きを、使ってください」
他の人は、遠慮して、1ページに数人が名前だけを書いている。
「作品を味わった、感想を書かせていただきます」
同じ文言が、お経のように繰り返し描かれている。
「楽譜、みたいだね」
あなたは、言った。
そう言われると、楽譜にしか見えない。
同じ文言を繰り返し書いているので、違う言葉を書くより、メロディーを感じる。
讃美歌も、お経も、同じ文言をリフレインする。
余白は、音と音の間。
てごねのお茶器もあった。
企画展のタイトルが、「水と火」というのは、そういう意味であることに気づいた。
「本当に、持つと味わいがわかりますね」
あなたは、言った。
「どうぞ、遠慮なく」
作者は、微笑みながら、言った。
あなたは、両手で、包み込むように持った。
まるで、そこに入れられたお茶を飲んだようだった。
他の人も、マネをした。
それは、ただ持っただけで、飲んではいなかった。
ひらがなで「いろは」が書かれている。
おや。
不思議なことに、それぞれの行が、下から上に書かれている。
ひらがなは、下に流れるように書くので、上につなげるのは、難しい。
上に上げるために、丸くなっている。
あなたは、その「逆書きいろは」を、一緒になって、エアで書いていた。
芳名帳に、あなたは書いた。
「タコ焼きのいろはに、音楽が聴こえる」
あのいろはは、もうタコ焼きにしか見えなかった。
タコ焼きの、口になった。