#1114 街よりも、街の人を。
あなたの街の人の楽しみ方が好き。
あなたと、神戸のホテルで食事。
メリケンパーク。
あなたは、5歳まで、この街に住んでいた。
家のベランダから、六甲山とポートタワーの両方を眺めていた。
雨が降って、花びらが芝生に落ちていた。
チャペルと、芝生、日本庭園、茶室、プール、テニスコートが並んでいる。
それが、神戸。
ロビーは、東京のフラッグシップと同じデザイン。
なのに明るく感じるのは、太陽の光を、海が反射するから。
東京が日本画なら、神戸は洋画。
テーブルの間隔が詰まっているのも、神戸人のフレンドリーさを感じる。
食事の後、タクシー乗り場へ。
雨で、タクシーはいなかった。
あなたは、ベンチの方に歩き出した。
異人館にあるようなクラシックなベンチが置かれていた。
「シャトルバスで、行こう」
ベンチは、シャトルバスを待つ人のためのものだった。
こういうところが、面白い。
来る時は、タクシーで来た。
同じルートでは、移動しない。
ちょうど出たばかりで、しばらく時間があった。
ラッキー。
それだけ、クラシックなベンチを、あなたと楽しめる。
シャトルバスが、到着した。
でも、まだ、乗ることはできなかった。
もう一軒、ホテルを回って、ゲストを降ろしてから、乗れる。
気がつくと、後ろに行列ができていた。
シャトルバスが到着すると、最前列に並んで座った。
補助席まで出して、ぎりぎり全員乗れた。
三宮の駅で、大勢降りた。
振り返ると、誰もいなかった。
私たち二人だけだった。
「貸し切りです」
スタッフの人が微笑んだ。
それから、新神戸の駅まで、スタッフの人とドライバーさんと、喋り続けた。
駅に着いて、エスカレーターを上がる。
「楽しいスタッフの人だったね」
その時、声がした。
「こちらこそ」
さっきのスタッフの人が、すぐ後ろに立っていた。
化粧室へ行くのだった。
あなたは、いつも街よりも、街の人を楽しんでいる。
あなたとスタッフさんの笑い声が、男性用化粧室から、聞こえていた。