＃1122 無音の音楽を、味わって。

あなたの無音の音楽が好き。
あなたと、ホテルのレストランで夕食。
あなたのカトラリーの使い方が、好き。
まるで、チェロを弾いているみたい。
ナイフが、ボウのように緩やかに、動く。
あらっ。
この音は？
どこかで、工事の音がする。
ホテルで、工事の音って。
リノベーションをしているのかしら。
でも、夕食の時間に。
音がする方を、見た。
発見。
２つ隣のテーブルのカップルの男性。
音は、カトラリーがお皿を擦る音だった。
テーブルを一つ飛び越えて聴こえてくる。
きっと。
スタッフさんは、ドキドキしている。
上質なお皿が、傷つかないか。
体幹の力抜けているのが、原因。
体幹の力が抜けると、末端に力が行く。
指に力が入ると、切れない。
同じお肉を食べているはずなのに。
あなたは、片道で、切れている。
その男性は、７回は往復している。
お肉が、硬そうに見える。
なかなかの営業妨害。
カップルの彼女も、キーコ音をハモっている。
あなたは。
全く、無音。
カップルのキーコ音で、あなたの無音さが、さらに増した。
ここに来る前。
あなたは、キッチンで洗い物をしていた。
その時も。
まったく、無音だった。
あなたの無音のチェロを、味わっている。