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#1151 信号を、待ちながら。

あなたの信号の待ち方が好き。
あなたと、講演の会場に向かっている。
9月に入っても、猛暑日。
連日の猛暑が、体に蓄積されていて、さらに暑く感じる。
信号が、点滅を始めた。
信号も、猛暑で点滅しているのかもしれない。
渡る人が、小走りになる。
あなたは。
立ち止まった。
渡れないことも、なかった。
疲れていたわけでも、なかった。
向こう側に、小さい男の子がいた。
男の子の隣に、妹がいた。
二人だった。
その男の子に、紳士の振る舞いを教えるために、立ち止まった。
あなたが止まってからも、何人ものおじさんが、渡っていった。
男の子は、あなたを見ていた。
走りかけていたが、あなたが止まるのを見て、止まった。
もし、無理やり渡ったら、妹に怖い思いをさせることになる。
男の子は、学んだ。
車は、通っていなかった。
信号は、長かった。
猛暑日は、さらに長く感じた。
さっき渡れたと思うと、もっと長く感じた。
隣のおじさんが、首の汗を拭いている。
あなたは、小さく呟いた。
<猛る日や>
俳句だった。
<猛る日や信号待つ身に風一閃>
<猛暑日や>ではなく、<猛る日や>があなたらしい。
猛暑の暑さと秋風の涼しさ、立ち止まる静と風の動の対比。
晩夏と初秋のオーバーラップ。
あなたの前髪を、一筋の秋風が、通り抜けた。
その風が、横断歩道の向こう側の男の子の前髪を、時間差で揺らした。



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