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#1192 父親と、話すように。

あなたの方言が好き。
あなたと、堺の「鉄炮鍛冶屋敷」に行った。
あなたは、高校時代まで、堺で過ごした。
江戸時代から、鉄炮を作っていた鍛冶屋敷。
イエローのジャケットを着たガイドさんが、解説をしてくれる。
時折挟まれるクイズが、NHKの番組のようで面白い。
なによりも、江戸時代に鉄炮が作り続けられていたことに驚いた。
解説が終わったかと思うと、優しそうなロマンスグレーの紳士が、微笑んでいた。
なんと、16代ご当主さんだった。
そういえば、NHKの番組でも見た記憶があった。
直々に、解説していただけることになった。
解説というより、あなたと話している。
親戚のおじさんに、「昔はね」と話している感覚。
ご当主の言葉の柔らかさに驚いた。
京都弁のような柔らかさがある。
商人は、摂津弁を話していたとのことだった。
見るものも、聞くものも、膨大だった。
大英博物館に入ったかのようだった。
「曽祖父がね」
おじいさんではなく、ひいおじいさんの話を、「父がね」くらいの感覚で話される。
火縄銃を持たせてもらった。
重い。
ご当主は、軽々と持った。
そんなに高く掲げることに、驚いた。
迎賓用の書院は、立派だった。
違い棚が、三段あるのは、大名屋敷くらいにしか許されていなかった。
それくらい、ここには格の高い賓客が訪れていたことが分かる。
違い棚の端が、くるんと巻いている。
「筆が落ちんようになってるんですね」
あなたが言った。
「久しぶりに、いい泉州弁を聞きました」
ご当主が、うれしそうに笑った。
現地では消えている言葉を、その土地から離れて暮らしている人は、持ち続けている。
あなたも、気づいていなかった。
ご当主は、職人だけど、あきんどの信用を重んじていたのが、印象に残った。
あなたは、お父さんと話すように、信用の大切さを教わっていた。
火縄銃の重さは、信用の重さだった。



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