#1235 チンチン、カンカンカン。
あなたの職人さんとの話し方が好き。
あなたと、包丁店に行った。
チンチン電車が走る大通り沿いを歩いていると、カンカンカンという音が聞こえてきた。
中に入ると、炭の香りがした。
窓際なのに、暗くしているのは、炎の温度を目視するためだった。
このお店では、お店の中で、包丁を鋼から、打っていた。
むしろ、鍛冶場で、包丁も販売しているという方が近かった。
しかも、手作りだった。
今は、打つ作業は機械でする。
機械ですると、1分でできる作業が、手作りだと、2時間かかる。
それでも、親方は、手作りにこだわっていた。
手作りしている職人は少ないので、このままだと、消失してしまうかも知れない伝統工芸だった。
こうして作っているというプロセスも見てもらうために、あえて路面電車の走る大通りに店を構えていた。
親方は、工程を、丁寧に説明してくれた。
ぶっきらぼうなイメージのある職人さんにしては、話し方が優しい。
一つひとつ手作りなので、依頼主のオーダーで、どんなものでも作る。
有名料理店のシェフが、作りに来るのも、そういう理由からだ。
あなたが、何かを見つけた。
微笑みながら、私に見せてくれた。
「こんなものがあった」
それは、太い釘だった。
頭の部分が、L字型に曲がっている。
長さが10cmくらいで、赤く錆びている。
あなたは、窓の外の大通りを走るチンチン電車を指さした。
あなたの仕草を見て、親方が
「さすが」
と微笑んだ。
染物職人の家で育ったあなたと、職人同士の会話だった。
「ドッグ・スパイク」
と、あなたが言った。
犬釘。
電車のレールと、枕木を固定する釘だと教えてくれた。
親方の目が、ブルーに見えた。
見えたのではない。
親方は、フランス人だった。
親方のおじいさんも、鍛冶屋さんだった。
鉄道のレールを作っていた。
DNAだった。
だから、鉄道のそばで、仕事をしていた。
電車のチンチンと、親方のカンカンカンが、セッションをしていた。





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