#628 指先に、触れた指
あなたの指の感触が好き。
あなたと海岸に行った。
誰もいない海岸。
砂浜。
私は、砂山を作るのが好きだった。
あなたも手伝ってくれる。
砂が湿っている。
磯の香りがする。
サザエのつぼ焼きを思い出す。
カモメが鳴いている。
散歩のゴールデン・レトリバーが、ご機嫌に通りすぎていく。
波の音だけが聞こえている。
はるかに、水平線。
「服が汚れるでしょ」と、ママに叱られていた。
ということは、水着でなく普通の服で、私は砂山を作っていたということ。
指の間に入る砂の感触が心地いい。
小さなカニが、出てきた。
山が完成した。
お楽しみは、ここから始まる。
トンネルを掘る。
山が崩れないように掘っていく。
あなたも、反対側から掘ってくれる。
どんどん掘って。
手が、腕が、とうとう肩までが、穴の中に入った。
今まで重かった感触が突然、軽くなる。
あなたの掘ってくれた穴と、つながった。
私の指先に、あなたの指先が触れる。
これ。
私が子供の頃から好きだった感触。
砂山のトンネルの先で、指先に、あなたの指が触れたときのぞくぞくする感覚。
私の一番のセクシーな体験。
初めてあなたの指に触れたとき、磯の香りがした。