#632 手品のように、片づいて
あなたのテーブルキープが、好き。
あなたと、レストラン。
あなたとのテーブルは、いつも奇麗。
片づいている。
要るものだけあって、要らないものがない。
いつ片づけたのかも分からない。
片づけているところも見せない。
片づけてますという動きもない。
手品のように片づいている。
さっきまでそこにあったものが、いつの間にか無くなっている。
「手品は、出すときよりも、片づけるときのほうが難しいんだよ」
あなたが教えてくれた。
次から次へと料理が運ばれてくる。
料理を取り分け、空いたお皿を下げてもらう。
テーブルには常に心地いい空間が残る。
余白がある。
隣のカップルのテーブルが小さかった。
あなたは特別に、大きなテーブルにしてもらったのだと思っていた。
気がついた。
テーブルの大きさは同じだった。
あなたが快適に片づけるので、テーブルが大きく見えている。
利休が二畳の茶室を作ったのも、小さくすることで、散らかさないで、大きな空間を感じてもらうために違いない。
あなたとのレストランは、まるでお茶会。
全てが、さりげなく片づけられていく。
片づけ方が、心地いい。
料理は、出し方よりも下げ方で勝負がつく。
テーブルには、水滴1つ残っていない。
ミネラルウオーターのグラスの跡も、残っていない。
「スナックの息子だからね」
テーブルの空いた空間を、妖精が楽しそうに飛び回っている。
空いたスペースに何が出てくるか、楽しみにしている。