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#647 私の中の旧式のジュークボックスを。

 あなたのメンテが好き。
 あなたと、フレンチレストランに行った。
 センターの大きなシャンデリアの下のテーブルに案内された。
 窓際には、大人のカップルがデートを楽しんでいた。
 窓から、高層階からの夜景が見えた。
 BGMの選曲は、大人の音楽だった。
 料理を頂いて、あなたと一緒に行った海を思い出した。
 あの時見た、海と空を、思い出した。
 水平線を思い出した。
 あの時、私は、何かの音楽を思い出していた。
 何の曲だったか、思い出そうとした。
 別の曲が、先に浮かんできて、思い出せなかった。
 私の中には、ジュークボックスが入っている。
 でも、ちょっと、性能が古くて、取り出すのに時間がかかる。
 あっ。
 思い出した。
 この曲。
 あらっ?
 私が、思い出そうとしていた曲が、BGMで流れてきた。
 こんなことって、あるのかしら。
 違った。
 私が思い出そうとしていた曲は、お店のBGMで流れてきたのではなかった。
 あなたが、歌ってくれていた。
 あなたは、私が思い出そうとしていることに、気づいてくれた。
 思い出そうとしているとは、一言も言わなかったから。
 そして、私が思い出せない曲を、思い出してくれた。
 私の中の旧式のジュークボックスが、一生懸命探しているのを、あなたは気づいてくれた。
 そして、「これでしょ」って、探し出してくれた。
 今日が、初めてではなかった。
 そんなことが、何度もあった。
 あなたは、私の心の中のつぶやきを、拾ってくれる。
 私は、私の中の旧式のジュークボックスが好き。
 あなたが、メンテしてくれるから。



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