#649 声を出す前に、支えてくれる。
あなたの支え方が好き。
あなたが、さっと腰を支えてくれた。
階段だった。
ふわり。
頭の中で、今起こったことを、巻き戻した。
あなたと、階段を降りていた。
あなたは、降りる時は、先に降りる。
上る時は、後から上る。
今は、降りていた。
あなたは、前で、階段を降りていた。
いつもの、幸せな鼻歌を歌っているのが、聴こえた。
あなたの鼻歌に気をとられて、ヒールが階段の端っこに、ひっかかった。
あっ。
体が、よろけた。
次の瞬間、あなたは、私の体を支えてくれた。
と、思っていた。
もう一度、プレイバック。
あなたは、私の「あっ」と言う声を聞いて、よろける前に支えてくれた。
どうして、よろけることが、わかったのかしら。
あなたは、前を向いて、鼻歌を歌っていたのに。
と、思っていた。
もう一度、プレイバック。
あなたは、私が「あっ」という前に、支えてくれていた。
「あっ」という声は、支えてくれてから出たのだった。
よろけたのも、支えてもらってからだった。
フライング。
どうして、よろけてもいないのに。
声も出していないのに。
先に、よろけるのがわかったのかしら。
私が、わざとよろけたのかしら。
もう一度、プレイバック。
あなたは、私を支えている間も、鼻歌を途切れさせていなかった。
この映像は、私の永久保存版になった。