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#650 踊るように、注いで。

 あなたの紅茶の注ぎ方が、好き。
 あなたと、カフェ。
 今日の気分は、ダージリン。
 ポットと、砂時計が置かれる。
 ダージリンの甘い香りが、立ち上る。
 ポットから、温かみが伝わってくる。
 砂時計が、名残りおしそうに、落ちていく。
 もう少し。
 この時間が、好き。
 デジタルタイマーで味わえない幸せ。
 砂が、グズグズしている感覚が、好き。
 きっと、宇宙って、この砂時計のようになっているに違いない。
 砂時計に、永遠を感じる。
 いつのまにか。
 あなたが、ポットから私のティーカップに注いでくれている。
 プレイバック。
 ポットの位置が、変わっている。
 ポットは、あなたと反対側にあった。
 いつのまにか。
 マジシャンのように、ポットをあなたのほうに引き寄せている。
 ポットのほうで、あなたに寄っていったかな。
 あなたに注がれるポットが、幸せそう。
 まるで、ポットとダンスを踊っている。
 右手だけで、ポットを持つ。
 イングリッシュ・ポットは、蓋にストッパーが付いているので、片方の手で大丈夫。
 それも、あなたと出会ってから知った。
 私は、日本茶式に、蓋を押さえていた。
 ポットを持つ右手よりも、シンメトリカルにダンスを踊っている左手がエレガント。
 注がれるカップまで、うっとりしている。
 注いでもらうって、セクシー。
 ティーカップの下のソーサーまで、もぞもぞしている。
 添えられたティースプーンまで、ドキドキしている。
 あなたは、ダージリンを注ぎながら、香りで私を包み込んでくれた。



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