#651 せせらぎの音が、半音上がる。
あなたの敏感な耳が好き。
あなたと、お庭を歩いた。
川のせせらぎが、聴こえた。
川は、見えなかった.
このお庭は、前に一人で来たことがあった。
その時は、せせらぎの音は、聴こえなかった。
最近、できたわけではない。
あの時は、心がざわついていて、せせらぎを聴く余裕が、私にはなかった。
あなたといると、心が整う。
せせらぎを、聴く余裕が生まれる。
「瀬落ち」という言葉も、あなたから教わった。
川は、それだけでは音を奏でない。
瀬落ちがあることで、川は多様な音を奏でる。
瀬落ちは、川というお琴の琴柱。
庭師の人が、瀬落ちの中に、手を入れた。
瀬落ちの中の落ち葉を、拾い上げた。
紅葉した落ち葉が、瀬落ちに張り付いていた。
庭師の人が、あなたに微笑みかけた。
あなたは、瀬落ちの人に、微笑みを返した。
庭師さんとあなたの間で、テレパシーのやり取りがあった。
私には、意味がわからなかった。
「……?」
あなたは、キョトンとしている私に、ヒントをくれた。
「何か、違わない」
違う?
何が。
私は、違う所を探した。
「目を閉じて、ごらん」
あなたは、微笑みながら、私が逆のことをしていることを諭してくれた。
目を閉じた。
……あっ。
せせらぎの音が、変わった。
瀬落ちの落ち葉を取り除くことで、せせらぎの音を変えてくれたのだ。
せせらぎの音が、半音上がった。