#659 香りのように、漂いながら。
あなたの紅茶の入れ方が、好き。
あなたと、ホテルのカフェ。
今日は、アフタヌーンティー。
紅茶は、私は、イングリッシュ・ブレンド。
あなたは、ダージリン・セカンドフラッシュ。
砂時計が、置かれる。
気がつくと。
あなたが、回転式のストレーナーで、私のカップに注いでくれる。
香りが立ち込める。
香りが、こんなに立ち上がるのは、上質な紅茶だからというだけではない。
あなたが、香りが立ち上がるように、入れてくれている。
あなたは、紅茶を注いでいるのではない。
香りを、立ち上がらせている。
葉っぱが、喜んでいる。
カップも、喜んでいる。
あなたは、すべてを喜ばせている。
隣のテーブルの女性が、振り返った。
きっと、あなたの香りが、そこまで届いたに違いない。
お店は、ニューヨーク・ゴシックテイスト。
壁には、洛中洛外図屏風。
ソファーの背中には、ティラノザウルスの標本。
ジョン・レノンのスケッチのような、一筆書きのイラストがおしゃれ。
周りのテーブルは、女の子の二人連れが多い。
ホテルのカフェの中は、外とは全く違う時間が流れている。
ピアノの曲が流れてくる。
『シティ・オブ・スターズ』。
『ララランド』の挿入歌で、二人が再開する場面で、ライアン・ゴスリングが弾いていた曲。
イングリッシュ・ブレンドを飲んでいるのに、なぜかニューヨークテイストが、ピッタリあっていた。
いや、私は、まだひと口も飲んでいなかった。
あなたの入れてくれたイングリッシュ・ブレンドの香りの中にいた。
漂ったのは、香りではなく、私だった。