#660 思い切って、優しく。
あなたのスコーンの切り方が、好き。
私は、香りの中に、漂っていた。
ホテルのラウンジ。
アフタヌーン・ティー。
三段重ねのアフタヌーンティー・スタンドが届く。
どれから、食べようか、迷う。
贅沢な時間。
お店によって、並べ方が違う。
上から順番のところもあれば、そうでないところもある。
どれから、食べればいいの。
あなたが、目配せをしてくれた。
カンニング。
良かった。
それを、一番に食べたかった。
1皿目だけでも、5種類を味わった。
2皿目は、スコーン。
ミルクスコーンとストロベリースコーン。
スコーンは、大好き。
だからといって、食べ方が上手というわけではない。
横に切ることを、前に教えてもらった。
そっと、ナイフを入れた。
やっぱり、粉砕した。
あなたが、お手本を見せてくれる。
まるで、最初からそこに割れ目があったかのように、キレイに割れた。
手品のようだった。
ナイフを、思い切って、挿れるといいよ。
2つ目のストロベリースコーンで、思い切りナイフを入れた。
キレイに、割れた。
1つ目で失敗しているだけに、うれしかった。
美味しい以上に、嬉しかった。
あなたの抱きしめ方と同じ。
恐る恐るではなく、ぐっと抱きしめてくれるのに、優しい。
私は、スコーンだった。