» page top

#663 狭い隙間に、入っていく。

 あなたの少年時代を思い浮かべるのが、好き。
 あなたと、隅田川クルーズで、橋の下をくぐっていく。
 いつもは、上から見ている橋を下から見るって、不思議な感覚。
 道を走っている時は、橋は見ていない。
 見ている時は、運転できない。
 橋は、エレガントな女性に見えた。
 一つ一つの橋のデザインの違いは、ドレスの違いに見えた。
 橋を下から覗くって、ドレスのスカートの下に入ることね。
 私は、ドキドキした。
 女性なのに、ドキドキした。
 ドキドキしている私は、スカートの中に潜り込んでいる側なのか。
 それとも、潜り込まれている側なのか。
 私は、両方のドキドキを味わっていた。
 女性のロングドレスを、ファッション美術館で、あなたと見た事があった。
 あの時も、これくらい膨らみがあると、一人くらい隠れることができるって、想像していた。
 隠れたい。
 隠したい。
 私は、二人分の快感を味わっている。
 橋の下を、くぐり抜けながら、少年のあなたが、大人の女性のスカートの下に隠れて、遊んでいるところを想像した。
 そんなことを考えているうちに、浜離宮の緑の森が見えた。
 入り口が、見当たらない。
 川沿いに、僅かな隙間がある。
 その隙間では、この船は、入らない。
 船は、その隙間に、どんどん近づいていった。
 私は、船の幅を確認した。
 そして、岸の隙間の幅を確認した。
 無理でしょ。
 狭すぎる。
 入らない。
 入るの。
 入り口には、大きすぎる。
 船は、狭い隙間に、吸い込まれるように、入っていった。
 セクシーな感覚だった。



【中谷先生のおすすめ電子書籍TOP3】 紹介記事はこちらからどうぞ