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#664 お殿様の、御成り。

 あなたの御成りが、好き。
 あなたと、船から浜離宮に上陸した。
 こんなところに、入口があるなんて、知らなかった。
 前にも、来たことがある場所なのに、全くちがう場所に思えた。
 同じ場所でも、どこから入るかで、ちがって見える。
 ちがう。
 結局、誰と行くかでちがう。
 入場券を確認する人はいなかった。
 船で上陸する人は、いちいちチケットを確認しなくても、持っていることはわかる。
 プライベート・クルーザーで、飛行場のない島に上陸する上流階級の気分だった。
 浜離宮は、静かだった。
 ユリカモメの声。
 船の汽笛。
 片側は、海。
 片側は、おしゃれな高層ビル。
 車の音も、都会の喧騒も、全く聞こえない。
 現代から、江戸にタイムスリップしたというより、江戸から現代にタイムスリップした感覚。
 お庭の中を、歩いた。
 大奥で、下働きだったお夏が、家光公におねだりをして生まれた綱重が、この庭園の最初の主だった。
 私は、おねだりで頑張ったお夏ちゃんに感情移入する。
 このお庭のリラックス感は、堅苦しい大奥の中での、お夏ちゃんのリラックス感に通じているに違いない。
 吉宗公は、ここで象を飼った。
 モテモテ将軍の家斉公が、最も足を運んだ。
 ここには、セクシーな空気が漂っている。
 人工の築山に上ると、全体を見下ろせる。
 かつての鴨狩の名所だった場所。
 いまでは、鴨がのんびり泳いている。
 池の水面に、雲が写っている。
 橋を渡ると、雲の上を歩いている気分になる。
 中島の御茶屋がある。
 いつもは、混んでいる。
 あなたが入っていくと、またしても貸切状態。
 お殿様の御成りにつきそうお夏になった。



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