#665 お箸の上を、滑らせるように。
あなたのお箸の持ち替え方が好き。
あなたと、和食のお店。
気が付かなかった。
私は、お箸の使い方が、きちんとしているつもりだった。
あなたのお箸の使い方を見て、恥ずかしくなった。
美しいものを見ると、反省したくなる。
恥ずかしくなる。
お茶碗を持ってから、お箸を持つ。
私も、お茶で教わっていた。
いきなり、お箸を下から取りに行ってはいけない。
上から、お箸を取る。
あなたの指は、指先まで、伸びていた。
それに比べると、私の指は曲がっていて、お箸をつまんでいた。
生まれてこの方、ずっと、こうしていたかと思うと、恥ずかしくなった。
今まで、会食をしたきちんとした人は、きっと、あれあれと思っていたに違いない。
そういうことは、指摘されない。
指摘されないことは、優しさでもあり、厳しさでもある。
あなたも、直さない。
自分で、気づくしかない。
それを知っているから、あなたはただ美しいお手本を見せてくれているだけ。
上から取った手を、お箸の下に持ち替える。
私は、そうしていた。
あなたは、違った。
あなたの指は、お箸を滑るように、お箸から一瞬たりとも離れずに、下側に回った。
お箸の愛撫だった。
思わず、叫び声が出そうになるのを、押さえた。
お箸が、感じている。
それを見るだけで、あなたが、女性にどう触れるのかも、わかる。
私は、お箸を離れて、無様に持ち替えていた。
あなたのお箸は、手品だった。
お箸で大事なのは、持ち方だと思っていた。
違った。
お箸の持ち替え方だった。
あなたのお箸の持ち替え方を思い出して、体の奥が、ぴくんとなった。