#667 糸が切れても、弾き続ける。
あなたの、弾き方が好き。
あなたと、津軽三味線の演奏会に行った。
これまで、長唄の三味線は、聴いたことがあった。
津軽三味線を生で聴くのは、初めてだった。
これまで聴いていた長唄の細棹とは、全く違う印象だった。
文楽の太棹とも、ちがう印象だった。
弾き始める前に、チューニングする。
私は、このチューニングが好き。
限りなくセクシーに感じる。
弦楽器なのに、打楽器のような響きがある。
3本の糸なのに、無限に弦があるように感じる。
さっきの音が、鳴っている間に、次の音がオーバーラップして聞こえてくる。
大編成のオーケストラのようにも、聴こえる。
超絶技巧は、指からではなく、全身で弾いている感じがする。
猛々しいロックのようでもある。
大人のジャズのようでもある。
目を閉じる。
様々な映像が、目に浮かぶ。
殺し屋が、大勢の敵を倒していくシーン。
桜吹雪が、舞うシーン。
浮かぶシーンは、いずれもハイスピードカメラで撮影したスローモーションなのは、どうしてだろう。
映画が、浮かぶ。
『津軽じょんがら節』『離れ瞽女おりん』『座頭市』。
高音高速の超絶技巧のところで、拍手が起こった。
拍手をしてもいい。
私は、拍手をすることができなかった。
演奏者が、息を止めているのが、わかった。
拍手が続く間、超絶技巧は続いた。
ピンッ、という音がなった。
演奏は、続いた。
演奏を終えた時、気づいた。
糸の1本が、切れていた。
残り2本で、誰にも気づかれずに、演奏を続けていた。
同じ。
津軽三味線を聴いているのに、あなたを感じていた。