#668 猛スピードで歩き、いきなり立ち止まる。
あなたの絵を見るスピードが好き。
あなたと、美術館に行った。
あなたは、観るのが速い。
説明を読むのも、速い。
私が、先に読み始めても、追い越される。
しかも、頭に入っている。
あなたと行く時は、あなたのスピードに、惑わされないように気をつける。
ついていこうとすると、転んでしまう。
絵を見るのも速い。
速いけど、ゆっくり見ている私よりも、遥かに、ゆっくり見ているに違いない。
あなたの目は、ハイスピード・カメラ。
あなたには、すべての世界が、スローモーションに見えている。
絵は、ズームアップできる。
同時に、ズームバックもできる。
初めて、あなたが展覧会を歩く姿を見た人は、スタッフの人と間違えるだろう。
もう、何百回と見ているので、知っているように見える。
でも、私は、知っている。
あなたが、時々、ゆっくり見ているものがある。
普通の人より遥かに、ゆっくり見ている。
巻き戻して、巻き戻して、見ている。
緩急の差が、激しい。
そこに、なにかそんなにゆっくり見なければならないものがあったかしら。
誰もが、通り過ぎるところで、あなたは立ち止まる。
まるで、探していたなにかに、出会ったかのよう。
絵が、喜んでいる。
「おや、あなたは、気づきましたね」
と、絵があなたに。話しかける。
普通の人には、聞こえないやり取りを、絵としている。
私には、聞き取れない。
仲良しと、話しているようにも、見える。
聞こえなくても、私は満足。
猛スピードのあなたが、立ち止まる瞬間に気づけただけで。