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#670 散歩の「さ」で。

 あなたの散歩が好き。
 あなたと、帰り道。
「散歩、しよう」
 あなたに、散歩を誘ってもらうのが、好き。
 散歩が好きな、ワンちゃんになった気がする。
 自分で、リードをくわえてきたくなる。
 あなたは、散歩の幸せを、知ってくれている。
 それが、私の幸せ。
 ふつうの男性の辞書の中には、散歩という言葉は、インプットされていないらしい。
「昨日、散歩したんだ」
 という話をすると、「ダイエットのため」「運動不足になるからね」と、余計な説明が入る。
 あなたは、余計なことを言わない。
 なにかのためがない散歩をする。
 そういえば。
 思い出した。
 あなたと初めて会った時。
 あなたが、私に最初にくれた言葉は、
「散歩、しよう」
だった。
 第一声が、「散歩しよう」。
 このひと言で、私は決めた。
 この人と、一生つきあおう。
「散歩、しませんか」でも、
「散歩するけど、どうですか」でも、
「よかったら、散歩でも」でもなかった。
「散歩、しよう」
と、言い切ってくれた。
 今は、散歩の「さ」で、反応してしまう。
 私のスカートが、揺れているのは、風のせいではない。
 心のしっぽを、ぶんぶん振っているから。



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