#676 味わう私に、感情移入。
あなたの感情移入が好き。
あなたと、映画を観た。
いい映画だった。
ストーリーに、ひねりがあった。
意表を突かれた。
まさか、こんなふうなお話になるとは。
そんなストーリーが面白い映画でも、あなたはストーリーを、あまり観ていない。
もっと、ささいな所を、観ている。
そんな仕草が、あったかなというところを、観ている。
主人公のワルっぽい男の子が、女の子に林檎を投げる。
「あの時、服の裾でこすった所が、優しかった」
そんなあなたの観方は、むしろ女の子。
あなたの中にいる女の子が、些細なところに、反応する。
その主人公は、ワルなんだけど、最終的には、正義のために戦うことになる。
その予感が、林檎を服でこするところにあるのかもしれない。
そう言われると、あのワルくんが、あなたに見えてくる。
あなたは、林檎をこすって投げるワルくんにも感情移入し、投げてもらう女の子にも、感情移入している。
不思議な、感情移入。
あなたの映画の話を聞くと、登場人物全員に、感情移入しているのが、わかる。
普通は、誰かの一人に、感情移入する。
あなたは、全員。
だから、お話は、深くなる。
ベッドで。
あなたが、私を愛する時。
あなたは、私に、感情移入している。
私が、あなたを味わう時。
あなたは、あなたを味わっている私に、感情移入している。
だから、いつも二人分、あなたは感じてくれる。
目覚まし時計が、なった。
「はーい」
返事するあなたは、目覚まし時計に、感情移入していた。