#679 暗くなるまで、待って。
あなたの香りが、好き。
あなたと、梅を見に来た。
あなたには、梅が似合う。
桜も一緒に、見た。
紅葉も一緒に、見た。
梅も、一緒に見れるのが、嬉しい。
桜や紅葉に比べると、花が控えめ。
枝の中に、ぽつりぽつりと、花がある。
桜だと、三分咲きと思えるくらいで、梅では、満開。
枝に、魅力がある。
桜の魅力が幹なら、梅は枝。
梅の枝には、表情がある。
直線的でありながら、曲線的でもある。
梅にも、種類があることを、あなたから教わった。
イメージでは、桜より濃い紅だった。
万葉集の時代の梅は、白だったと話してくれた。
雪の中に咲き始める梅に、奈良時代の貴族は、美を見出した。
万葉の時代の花は、梅。
花が桜に成るのは、桓武天皇になってから。
鶯も、探しにくいに、違いない。
そのかわり。
梅のお庭を、あなたと歩きながら、気がついた。
春風が、前髪をなびかせた。
ジブリ映画では、ヒロインの前髪が揺れる時は、なにかを決心した時。
前髪が、額に収まる頃、香りが届けられた。
梅の香り。
香りこそ、梅なのだ。
香りを、引き立たせるために、視覚的には、ストイックに抑えている。
色彩が鮮やかになったら、鮮やかさに目を奪われて、香りが際立たなくなってしまう。
そうだ。
梅は、夜。
あたりが見えなくなった時、梅の香りが、存在感を発揮するのだ。
「暗くなるまで、待って」と梅が、囁いた。