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#693 はみでるより、食み出る。

 あなたの漢字が、好き。
 漢字をたくさん知っている人が魅力的。
 漢字は、魔法。
 まるで、呪文のように感じる。
 そんな言葉に、まさか漢字があったなんて、思いもよらなかった。
 頭の中で、ひらがなでしか考えたことがなかった言葉を、あなたが漢字で書いてくれる。
 漢字は、神様と皇帝がやりとりをするために作られたと教えてくれた。
 やっぱり、漢字は、呪いだった。
「食み出す」
 と、あなたが書いてくれた。
「はみだす」に、漢字があるとは、思わなかった。
 食という字は、難しい字ではなかった。
 今まで知っている字で、そんな使い方があるのかと教えてもらうと、近所で入ったことがないお店に初めて入ったら、美味しかったという感覚に似ている。
 世界の地図が、がらりと変わってしまう。
 たった一文字で。
 あなたを、口に含む。
 その時、思い出した。
 たしかに、「食み出す」。
 漢字を中国から、日本語に置き換えた係の人は、女性だったに違いない。
 あなたを、中に迎え入れる。
 たしかに、「食み出す」。
 入っている所に、触れてみる。
 食み出でている。
「はみでる」より「食み出てる」。
 それ以来。
 ミーティングの時に、「食み出る」という言葉を聞くたびに、一人で笑っている。
 今日も、言われた。
「何、笑ってるの」
 説明できない。
 ランチタイムで、看板に、「はみでる」と書かれていた。
 だめだめ。
 こんな公然と、書いちゃ。
 もちろん、注文した私。



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