#696 鏡を見ないで、感じる。
あなたとブティックに入るのが好き。
あなたと、ブティックに入る。
スタッフと、話をする。
「たとえば、これなんか、いかがですか」
スタッフの美人が、私に一着のドレスを勧めてくれた。
私は、胸に当てて、鏡を見た。
「とにかく、来てごらん」
あなたが、言った。
試着してみることにした。
試着室から出てきて、店内にある大きな鏡に近づいた。
「こっちを、向いてごらん」
あなたの言葉の意味がわかった。
「鏡に、近づいちゃだめ」
という意味だった。
いつも、洋服を試着する時は、すぐ鏡を見ていた。
しかも、鏡にぶつかるくらい、近づいて見ていた。
「どんな感じ」
私は、鏡を振り返りそうになるのを、ぐっとこらえた。
不思議な感覚が、湧いてきた。
元気が、みなぎってくる。
電源に、チャージされている感じ。
鏡を見ている時には、気づかない感覚だった。
あなたが教えたかったのは、この感覚だった。
「こんなのも、お似合いだと思います」
美人スタッフが、別のを持ってきてくれた。
「全部着てみると、いいよ」
迷わず、着た。
鏡を、見なかった。
「今日、これを着てきたかのように着るのが、コツだよ」
たしかに、そんな感じがしてきた。
さっきのとは、また違う感覚が、湧いてきた。
「よし、全部、着てみよう」
私の中で、何かが目覚めた。