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#697 小さな、叫び声が。

 あなたの「わっ」が、好き。
 あなたと、美術館に行った。
 水墨画。
 奥深い、山の景色。
 あなたが、何かを見つめている。
 そこには、小さな人物が、描かれていた。
 気付かなかった。
 人物なしで、風景のみが描かれていると思っていた。
 そう思ってみると。
 小さな人物が、こっちにも描かれていた。
 2箇所に描かれているのに、気付かなかったなんて。
 2箇所。
 あなたの目線を追いかける。
 あなたの目線を追いかけると、そこに小さな人物が現れる。
 3箇所。
 ここにも。
 4箇所。
 まるで、絵の中に、あなたが描き込んでいるように、小さな人物が、突如として浮かび上がってくる。
 いったい、何人隠れているのだろう。
 いや、違う。
 それは、全部、同じ人物。
 同じ服装をしている。
「わっ」
 あなたが、小さな叫び声を上げた。
 目の前に、長い石の階段が、現れた。
 あなたは、見ていたのではなかった。
 あなたは、絵の中に入って、小さな人になっていた。
 この人物は、全てあなただった。
 だから、あなたが眺める所に、小さなあなたが現れていた。
 私は、その水墨画を眺めていた。
 あなたは、その中に入って、深山幽谷の中を、散策していた。



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