#723 まるで、日舞のように。
あなたの扇子の魔法が好き。
あなたと、和食。
窓際の席。
窓が、開いている。
今日は、猛暑日。
日が落ちても、温度が下がらない。
扇子で、仰ぐ。
お隣のテーブルの浴衣の二人組の女性も、パタパタ仰いでいる。
おや。
急に、涼しくなった。
お店のご主人が、さすがに、クーラーを急冷で入れてくれたに違いない。
あなたも、扇子で、仰いでいる。
深緑の扇子。
あなたが扇子で仰いでいる所を見ると、私のは、集金のおじさんの「儲かりまっか」という仰ぎ方だ。
今まで、気づかなかった。
あなたの仰ぎ方は、違う。
せこせこしていない。
仰ぎ方が、いかにも、涼しい。
お扇子を、七分に開いている。
ゆっくり、仰ぐ。
3回、ゆっくり仰いだだけで、クーラーが入ったような涼しさが、訪れる。
私の仰ぎ方は、いかにも、暑苦しい。
あなたの仰ぎ方は、いかにも、涼しげ。
急に温度が下がったのは、クーラーが入ったからではなかった。
あなたが、仰いだせいで、部屋全体に涼しい風が吹いてきた。
さっきまで、パタパタ仰いでいた隣の女性二人組みも、仰ぐのをピタリとやめている。
女っぷりが、上がったように見える。
あなたは、自分に向かって、風を送っていない。
むしろ、自分から、みんなに風を送っている。
あなたの扇子の魔法。
お部屋全体を、涼しくしてくれる。
まるで、日舞のように。