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#729 書く仕草まで、美しい。

 あなたの書く仕草が、好き。
 あなたが、原稿を書いている。
「これを、書きあげたら、美味しいものを食べに行こう」
 連載の締め切り原稿を書いている。
 作家のイメージとは、まるで違う。
 締め切りに、追われている感は何もない。
 おいしい食事の前に出るアミューズのように、楽しんでいる。
 締め切り原稿を書くことで、食欲をかきたてているようにも、見える。
 あなたのキーボードの心地いいリズム感。
 ジャズ・ピアニストのような、自由なメロディー。
 その音が、途切れることはない。
 あなたは、何を書こうか、考えることはない。
 書き始めたら、書き終わるまで、止まらない。
 ジャズ・ピアニストが1曲弾き終わるまで、止まらないのと、同じ。
 パソコンのキーボードか、ビアノのキーボードか、区別がつかない。
 あなたには、区別がない。
 書きながら、あなたの頭の中に、音楽が流れている。
 あなたの書いているシルエットが好き。
 あなた自身が、音楽になっている。
 あなた自身が、文章になっている。
 私は、ピアニストの聞く仕草が好き。
 音色よりも、仕草に見とれている。
 あなたの書く仕草は、作業ではない。
 書く仕草自体が、ダンスになっている。
 あなたが文章を書く時、唇がかすかに開いている。
 微笑みを浮かべている。
 頭の中で、考えて書いていない。
 手が、考えている。
 巫女さんが、神がかりになって、宇宙からのメッセージを使える媒介になっているのに、似ている。
 メッセージが、あなたの身体を、通過している。
「お待たせ」
 振り返ったあなたは、ひときわ爽やかな、優しい微笑みを浮かべた。
 あなたの髪が、宇宙からのメッセージを受け取るレーダーのように、揺れていた。



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