#736 食べるより、味わう。
あなたの味わい方が、好き。
あなたと、食事に行く。
今日は、和食。
おいしい。
あなたと食べるから、おいしい。
あなたが選んだお店だから、おいしい。
締めは、栗ご飯だった。
きれい。
蓋を開けると、ごはんの上に、紅葉の小さな葉が乗っていた。
かわいい。
あなたは、おいしいものを食べた時、おいしいで、終わらない。
「東福寺の紅葉を、思い出すね」
あなたに比べると、私は「おいしい」で、終わっている。
「おいしい」のあたりで、ウロウロしている。
あなたは、「おいしいの先の景色」に遊んでいる。
デザートに、わらび餅が出た。
きなこのわらび餅。
甘すぎないところが、おいしい。
あなたは。
「子どもの頃、屋台でわらび餅を、売りに来たんだ」
あなたは、また、遠くを飛び回っていた。
デザートに、甘いも、甘すぎないも、味のあたりでウロウロしている。
私は、必死に、食材を見ている。
あなたは、一口口に含むと、上を見て、味わっている。
私は、食べていた。
あなたは、味わっていた。
食べている私は、味の話しかできない。
味わっているあなたは、懐かしい景色の中を旅している。
副料理長は、女性だった。
味わっているあなたを見て、嬉しそうに、微笑んでいた。
あなたと一緒に、私も、上を見た。
懐かしい記憶が、蘇ってきた。