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#739 背中越しの、再会。

あなたの振り返り方が、好き。
あなたと、電車に乗っていた。
駅に、着いた。
大勢の人がいた。
エスカレーターを降りた時、一人の女性が、あなたの背中をポンと叩いた。
親しい知り合いの叩き方だった。
知り合いでも、それほど親しくない人だったら、声をかけるだけだ。
結構な、思い切りで叩いた。
叩き方の強さで、親しさがわかった。
きれいな大人の女性だった。
子どもが叩くならまだしも、大人の女性が、なかなか思い切り叩くものではない。
大人の女性が叩くということに、ますます親しさを感じた。
こういう時、私は、嫉妬感を何も感じない。
むしろ、ちょっと、嬉しくなる。
あなたを見つけて、親しげに叩く女性がいる。
ただの友達ではない。
それが、私は嬉しい。
しかも、その女性が、大人の美人。
ますます、嬉しい。
「やっぱり」
彼女は、言った。
名前を呼ぶわけでもなく、そのひと言だけというのが、大人の女性だった。
あなたは、振り返った。
あんなに、勢いよく背中を叩かれたのに、あなたは驚かない。
振り返りながら、彼女に、にっこり微笑んだ。
あなたも、彼女も、マスクをしている。
目と目の会話があった。
あなたは、叩き方で、すでに彼女であることを気づいていたに、違いない。
思い切り背中を叩く彼女が、素敵。
思い切り背中を叩かれるあなたが、素敵。
まるで、濃厚なラブシーンを見たような感じがした。
あなたは、まるで、昨日も会ったかのように、微笑んでいた。



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