#740 探す仕草に、色気がある。
あなたの探す仕草が、好き。
あなたと地下鉄に、乗っている。
地下鉄の中で、あなたは完全に、浮いている。
別世界の人のようだ。
スマホに目を落としていた女性が、あなたを見て、瞳孔が大きくなった。
地下鉄の中の、デジタルモニターのように受け取ることで、あなたの存在に納得した感じだった。
駅に、着いた。
初めての駅。
地下鉄の行き先の出口が、前側なのか、後ろ側なのか、わからない。
あなたが、左側を見た。
そして、右側を見た。
普通は、それだけの動作。
普通は、キョロキョロしてしまう。
普通は、イライラしてしまう。
今、私は、まったく違うものを見た。
あなたは、くるりと、回転したように見えた。
本当に回転したのかどうか、わからない。
回転したように、見えただけかもしれない。
あなたのことだから、ついでに回転したかもしれない。
あなたの動きは、小さな仕草まで、ダンス。
地下鉄の駅のホームというのが、いい。
ミュージカルを見ているようだった。
もう一回、見たくなった。
頭の中で、リプレイした。
美しい。
品がある。
色気がある。
いつまでも、眺めていたい。
「こっち、だね」
あなたは、何事もなかったかのように、笑っている。
電車が、走り出した。
走り出した電車の中に、うっとりした顔で、あなたを見ている女の子がいた。