#750 前菜を、メインのように。
あなたの前菜の味わい方が好き。
あなたと、イタリアンのレストランに。
コースメニュー。
前菜が出る前に、パンがサーブされた。
「あ、ふわふわだよ」
あなたが言った。
おいしそう。
と思いながら、あなたを見た。
あなたが、パンを触ったと思った。
あなたは、パンに触れてはいなかった。
触れていないのに、「ふわふわ」と言った。
あなたは、触らないで、感覚がわかる。
あなたにとって、見れば、それは、触ったのと同じ。
触る必要はない。
見るだけで、触った感じがわかる。
私は、触った。
ふわふわだった。
あなたの言った通り。
ウエイトレスの美人に、言った。
「これは、危ないね」
「シェフ自慢の手作りパンです」
あなたは、それだけで終わらない。
「これって、お替りとかできるかな」
「もちろんです」
あなたに、バレていた。
お替りができるかどうかは、私が聞きたかったこと。
でも、ちょっと恥ずかしくて、ガマンしていたこと。
お替りができる。
これで、一皿目で食べきっても、大丈夫というペース配分が決まった。
一皿目は、ブラータチーズに、生ハム。
プラータチーズは、最近、私がハマっているメニュー。
ブラータチーズを生ハムで巻いて、一口で食べようと思った。
ちらりと、あなたのお皿が、目に入った。
あなたが、エレガントにパンをちぎっている。
一口サイズにちぎったパンに、ブラータチーズと生ハムを、少しずつのせた。
あっ、その手があった。
もはやそれは、前菜ではなく、メインだった。