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#760 お水に、魔法をかける。

あなたのマジックが、好き。
ホテルのバーの、カウンター。
バーテンダーさんが、氷を削っている。
グラスに、氷が入る。
心地いい音が鳴る。
削る音も、氷がグラスに入る音も。
全ての音が、心地いい。
作業の音が、最高のBGMになる。
ボトルからお水を注ぎ、マドラーでかき混ぜる。
今度は、無音。
まんまるに削られた氷が、グラスの中で、地球儀のように回る。
混ぜているのに、音がしない。
マドラーが、垂直に立っている。
マドラーをそっと抜く。
その上から、何かを捻るように見えた。
そして、何かを中に入れた。
レモンの小さな皮だった。
そこに、今度は、緑の葉っぱを投げ入れた。
その手付きは、クロースアップ・マジシャンだった。
バーに入るのか、手品を見ているのか、わからなくなった。
あなたと、私の前に、2つのグラスが、運ばれた。
グラスを置く音がしない。
グラスの表面に、七色に光るオイルが見えた。
レモンのオイルだった。
ミントの香りがした。
投げ入れられた緑は、ミントの葉だった。
深い深呼吸になった。
今、私、きっと、笑ってる。
自分でも、わかった。
グラスを持ち上げる。
一口。
グラスの薄さが、唇に心地いい。
液体を注いだ瞬間、驚いた。
さっき、注いだのは、お水だったはずなのに。
クロースアップ・マジシャンは、お水を、魔法の液体に、変えていた。
あなたが、ウインクしたような、気がした。
あなたの魔法のお水を味わう姿勢が、好き。



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