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#762 二人だけの、囁き。

あなたの囁きが、好き。
今日は、コンテスト。
あなたは、審査員。
みんなは、出場者を見ている。
私は、審査員のあなたを見ている。
セミファイナル、ファイナルと、絞られていく。
ギャラリーの誰もが、優勝者を予想する。
審査員が、真剣な面持ちで、審査している。
あなたは、微笑んでいる。
背中からしか見えないけど、あなたが微笑んでいるのが、わかる。
出場者が、緊張しないように、あなたは、微笑んでいる。
両隣の審査員にも、話しかける。
審査員の緊張を、ほぐすために。
最終選考のために、審査員が、審査員室に向かう。
その時も、あなたは、左右の女性の椅子を引き、エスコートしていた。
さて、優勝は、誰か。
出場者に、ひときわ目立つ女性がいた。
優勝は、この子かな。
私は、予想した。
最終発表。
5位から、発表になる。
拍手。
4位。
拍手。
3位。
私が、予想した女性の名前が呼ばれた。
彼女も、一瞬、きょとんとした表情になった。
きっと、自信があったに違いない。
泣かなかった。
満面の笑顔でもなかった。
3位のサッシュをかけるプレゼンターは、あなた。
あなたが、サッシュを彼女にかけながら、なにかを囁いた。
その瞬間、彼女の瞳から、涙が溢れた。
そして、最高の笑顔になった。
あなたが、何を囁いたのか、聞こえなかった。
あなたと彼女との二人だけの会話。
その場面を目撃できたのが、幸福だった。



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