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#765 あなたとだから、できる。

あなたと初めてのことをするのが、好き。
あなたと、ギャラリーに行った。
ここは、伝統芸能のギャラリー。
普通の美術館ではない。
ブランドのフラッグシップになっている。
1階が、ショップ。
要塞のような建物は、それ自体が、一つのアート作品になっている。
あなたと一緒でなかったら、なかなか入るのに、勇気がいる。
そんな時、あなたは。
要塞の賓客にふさわしく姿を変えて、中に入っていく。
「お約束ですか」
スタッフの女性が、あなたに聞いた。
お店に入っただけなのに、「お約束のお客様」に見えてしまう。
後から、わかった。
他のお客様には、その質問はなかった。
ビルは、5階建て。
1階が、ショールーム。
2階が、ギャラリー。
3階より先は、お約束のお客様だけのようだ。
「まず、ギャラリーを拝見します」
あなたは、階段を上がっていく。
階段に、驚いた。
えっ。
思わず、声が出た。
あなたが、心配して、振り返ってくれた。
暗い。
黒いのではなく、暗い。
まるで、ブラックホールのように、光を吸い込んでいる。
まだ、外はお昼なのに。
階段というよりは、暗い穴の中に、入っていく感じ。
あなたと一緒でなかったら、入れない。
足元が、見えない。
自分の足なのに、闇の中に、浮いているように感じる。
あなたは、迷いもなく、上がっていく。
あなたは、いつものように、ここも初めてに、ちがいない。
あなたと、闇の中を、上がっていく。



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