#771 ちがうと、言わない。
あなたのクイズが、好き。
あなたと、新幹線。
前の席のすき間から、小さな女の子が、覗いている。
小さな女の子でも、あなたが、普通の人でないことは、わかる。
小さな女の子だからこそ、わかる。
あなたは、絵本や童話の登場人物。
彼女は、さっきから、ママにクイズをおねだりしていた。
つい、私も、引きずりこまれていた。
考えていた。
ママは、3択問題を出していた。
これが、なかなかいい問題。
あなたも、考えているのが、わかった。
ママの問題が、出尽くした頃。
少女は、あなたを見つけた。
「クイズ」
少女は、あなたに小さな声で、言った。
声というより、クチパクで、言った。
「それでは、問題です」
あなたは、言った。
少女は、うれしそうな顔になった。
同時に、真剣な顔になった。
「この曲は、ディズニーの何というお話の曲でしょう」
あなたは、メロディーをハミングで口ずさんだ。
あっ、これは。
「A、シンデレラ。B、白雪姫。C、眠りの森の美女」
あれ、どれだっけ。
私も、思い出せない。
「A」
少女は、答えた。
私も、同じ答えだった。
「おしい」
ちがうの。
「じゃあ、B」
そうそう。
「でないと、すると」
「C」
「正解」
あなたは、驚いた顔のように言った。
少女の顔が、プリンセスになった。
「どうして、わかったの」
あなたのその言い方が、優しかった。
あなたが「ちがう」というのを聞いたことがないのを、思い出した。
少女のママも、すき間から、微笑んだ。