#779 いつのまにか、3人連弾。
あなたの手拍子が、好き。
あなたと、空港。
どこからか、音楽が聴こえてきた。
音楽に、吸い寄せられるように、歩いていく。
私が、吸い寄せられているのか。
あなたが、吸い寄せられているのか。
音楽に、吸い寄せられているのか。
あなたに、吸い寄せられているのか。
最初は、何の音楽か、わからなかった。
だんだん、音楽の輪郭が、見えてきた。
スピーカーからのBGMではなかった。
ロビーの一角に置かれたストリート・ピアノだった。
曲は、『リベルタンゴ』。
演奏しているのは、一人ではなかった。
連弾だった。
外国の女性と、日本の女性。
二人は、高域と低域を、交代しながら、演奏した。
情熱的だった。
踊りだしたくなった。
手拍子を、打ちたくなった。
心の中で、手拍子を打った。
手拍子が、聴こえてきた。
心の中で、打っているつもりが、いつのまにか、本当に打ってしまったのか。
ちがった。
手拍子は、あなただった。
しかも。
あなたが打っているリズムは、私が打っているリズムと違った。
私が打っているリズムは、4拍子だった。
まわりのみんなも、4拍子だった。
あなたの手拍子は、ちがった。
グルーブしていた。
等間隔ではなかった。
ジプシーダンスが見えた。
あなたの手拍子に比べると、私たちの等間隔の手拍子は、優等生のお子様の手拍子だった。
あなたの手拍子に、演奏している2人が、振り替えって、ウインクをした。
ピアノは、いつの間にか、3人連弾になっていた。